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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)910号 決定

抗告人 谷川喜吉

主文

原決定を取消す。

本件競落を許さない。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

本件記録によれば、抗告人は昭和四五年五月二六日別紙物件目録記載(一)の土地(以下(一)の土地という。)を買い受けて同年六月二三日所有権取得登記を経由し、同四六年五月四日、(一)の土地につき東京都商工信用金庫のため債権額五六四万円の抵当権設定登記をしたが、その後同年九月一日(一)の土地上に別紙物件目録記載(二)の建物(以下(二)の建物という。)を新築して同年一二月一七日所有権保存登記を経由し、同四七年一月二二日、(二)の建物につき、追加共同担保として、右信用金庫のため債権額五六〇万円の抵当権設定登記をし(以上の共同抵当権を一括して「第一抵当」という。)、次いで、(一)の土地と(二)の建物につき共同で、同四七年一〇月一七日、株式会社第一相互銀行のため極度額三六〇万円の根抵当権設定登記(この共同抵当権を「第二抵当」という。)、同五一年三月一九日、同じく右銀行のため極度額三〇〇万円の根抵当権設定登記(この共同抵当権を「第三抵当」という。)、同五一年四月二八日、唐鎌文夫のため債権額六〇〇万円、佐藤実のため債権額五〇〇万円、手塚秀蔵のため債権額五〇〇万円の各抵当権設定登記(いずれも同順位。以上の各共同抵当権を一括して「第四抵当」という。)をしたこと、同五二年九月一日、株式会社第一相互銀行は第二抵当に基づき、残債権元本三三五万円があるとして、(一)の土地及び(二)の建物につき本件競売を申し立て、同日競売開始決定があり(原審昭和五二年(ケ)第六四号)、さらに同年一〇月六日東京都商工信用金庫は第一抵当に基づき、残債権元本三七五万円があるとして、(一)の土地及び(二)の建物につき競売を申し立て(原審昭和五二年(ケ)第七三号)、前記第六四号事件に記録添付されたこと、右競売手続において、評価人により(一)の土地は一、一二二万円、(二)の建物は一、二六九万二、〇〇〇円と評価されたこと、そこで原審は(二)の建物のみにつき競売を命じたこと、同五二年一〇月二六日の競売期日において、唐鎌文夫(第四抵当の抵当権者の一人)が(二)の建物を右価額一、二六九万二、〇〇〇円で競買し、同月二八日競落許可決定(原決定)があったこと、(一)の土地は現況宅地であること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、第一抵当のうち(一)の土地に抵当権が設定された当時は、同土地は更地であったから、法定地上権の問題を生ずるに由なかったが、その後同地上に新築された(二)の建物に同一抵当権者(東京都商工信用金庫)のため共同担保として抵当権が設定されたことにより、建物のみの競売の場合には法定地上権が生ずることになったものと解すべきである((一)の土地の抵当権者が別人であるならば、この者に右法定地上権を対抗しえないけれども、本件のように同一抵当権者による共同抵当である場合は、対抗問題は起こらないと解するのが相当である。大審院大正一五年二月五日判決、民集五巻八二頁参照。)。

そうとすれば、第二抵当以降の共同抵当権設定に基づく競売の場合にも、もとより同様である。

ところで、本件記録中の鑑定評価書によれば、評価人は、(一)の土地が(二)の建物の敷地として現実に利用されていることを考慮し、(一)の土地については「効用阻害率」を判定して更地価格を減価し、(二)の建物については「効用増価格」を判定して建物価格を増価し、それぞれの評価額を決定した旨の記載があるが、更地価格、建物価格及び右「効用阻害率」、「効用増価格」の数値を明らかにすることなく、評価額の結論のみを記載しており、右「効用阻害率」あるいは「効用増価格」が法定地上権の価格に相当するものであるかどうかを知りえないのみならず、両評価額を対比すれば、地上権価格としての評価はなされなかった疑いもあり、果して適正な評価方法によって評価されたものであるか、疑いなきをえない。そうすると、競売の公正を害するおそれがあるから、結局、本件競売は最低競売価額の決定、公告がなかったと同一視するほかはない。

なお、本件において(一)の土地と(二)の建物を一括競売に付すべきであったかどうかの点については、本来、競売の申立のあった数個の不動産を個別に競売するか、一括して競売するかは競売裁判所の自由裁量によって定めるべきものであるけれども、本件のようにその数個の不動産が土地とその上に有する建物であって、建物のみの競売により法定地上権が生ずるような場合においては、個別競売に付するときは土地のみの競売が困難となり、その結果土地建物の競落代金の合計額が一括競売の場合の競落代金額に比して低額となるおそれがあるので、一般的にいえば、競売裁判所としては、競売物件を公正にしてなるべく高価な価額で売却するという競売制度の目的にかんがみ、一括競売を相当としない特別の事情の存しない限り、その方法によるべきものというべきであるが、本件においては、競売手続の利害関係人から一括競売を申出た形跡も記録上認められず、また抗告人からも個別競売により生ずべき具体的な不利益に関する主張及びこれを裏づける資料の提出もないので、この点の抗告人の主張は、直ちに採用することができない。

ただ、本件の場合、一括競売に付すれば前記評価上の問題点は結局競売の公正を害することにはならないが(第一抵当、第二抵当の各債権者の主張する残元本債権額は合計七一〇万円であるが、これに第三抵当及び利害関係人として当然配当に加えられるべき第四抵当の各被担保債権額を合算すれば、総被担保債権額は二、六一〇万円となって、(二)の建物の競売のみでは総債権者を満足させるに足りないことは、計数上明らかであるから、民訴法六七五条の適用はない。もっとも、第三抵当、第四抵当が何らかの理由で不存在または消滅していれば別であるが、記録上これをうかがい知ることはできない。)、原審が一括競売の方法を採らなかった以上、前記競売価額決定、公告の違法は原決定に影響を及ぼすといわなければならない。

したがって、再評価を命ずるか、または一括競売に付するかのいずれをもすることなく競売手続を進め、競落を許可した原決定は違法と認められるから、これを取消し、本件競落を許さないものとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川島一郎 裁判官 小堀勇 小川克介)

〈以下省略〉

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